2012年6月16日土曜日

cafe philoのこと:政治,政治家,政治参加

一ヶ月ほど前のある晩,行きつけのコーヒーショップで,「鶏もも肉の香草焼き定食」を食べていたら,入り口から制服をきた女子高生たちがドヤドヤと入ってきて,地下のサロンスペースに降りていった。むむ!あの特徴的な深緑色のブラウスをきた女子高生たちは,台湾随一の名門高・台北一女の生徒たちに違いない。しかし,なにゆえ,夜の7時にこんなところに現われたのだろう?


cafe philoの入り口付近


慕哲珈琲(Cafe Philo)というこのコーヒーショップのオーナーは,野党・民主進歩党の鄭麗君・立法委員夫妻である。ある時,社会運動に深く関わっている友人と話をしていて,「よく行くコーヒーショップで,おもしろい文化イベントをやっている」という話をしたところ,その友人がオーナーと旧知の間柄であり,その店の経営にも間接的に関わっていることが判明した。それ以来,いっそう足繁くCafe Philoに通うようになった。


鄭麗君さんは,哲学の勉強のために留学したパリで,フランスのカフェ文化と出会い,人々が公共的な話題について語り合う場を台湾にもつくりたいという思いから,この店を開いたという。実際,この店には,台湾大学近辺の喫茶店にも共通する文学と哲学と政治の香りがある。壁にはグラムシやカミュの名言が記された大きな布が飾られ,レジの周りには,各種の文化,政治イベントのちらしが置かれている。



紹興北街・忠孝東路口からほど近い。

とはいっても,この店にとっつきにくい雰囲気はみじんもない。開放的なつくりの,居心地のいいカフェで,誰でものんびりくつろげる。客のほとんどは,近所のオフィスで働く人々や住人たちだ。
特徴があるのは,女子高生たちが降りていった地下のサロンスペースのほうだ。ここでは毎週金曜日に「哲学の金曜日」という哲学イベント(?!)が行われているほか,各種の討論会や新書発表会等の催しが頻繁に行われている。


星期五というのは金曜日のこと



そして今日からは,鄭麗君議員事務所が主催する連続座談会 「国会の大きな声,小さな声:けれどもあなたの声が足りない(國會大小聲:就缺你的聲音)」が始まり,その第一弾として,近年の台湾で大きな議論を呼んでいる義務教育の12年制をめぐる座談会が行われるのだという。パネル参加者は,鄭議員のほか,教育関係のNGOの役員たち,反・12年国民教育学生連盟のメンバーで建国國中(高校)の生徒の洪さん,台北一女の生徒の蔡さん。



店の前のポスター。いつも思うのだが台湾の各種イベントのポスターはよくできている。



国会議員を含む3人の大人と,2人の高校生が,教育改革について議論する!これはおもしろい,行くしかない! と勇み立ったのだが,そもそも今日ここで夕食をとることにしたのは,せっぱつまった仕事がまったく終わっていないからである。ここで2時間半も寄り道をしていいはずはない。その日はすごすごと引き上げた。

翌週のトピックは「独身公害?愛情公害?人生の選択と多元的なジェンダー」。これまたなんとしても聞きたいテーマだったが,仕事の泥沼がさらにグツグツ煮立っていたため,泣く泣くパス。

というわけで,三度目の正直が実現したのが,先週木曜日のことである。この日の討論テーマは「命は平等不平等? 動物の権利と動物保護を語る」。正直,私としては4回の討論会のなかでいちばん関心の薄いトピックだが,行ける時に行かないと機会を逃すと思い,参加した。ただ,事情により,2時間半のイベントのうち初めの1時間半しか参加することができなかった。見聞録としてははなはだ不十分なものだが,会場に身を置くことで感じたものは少なくなかった。

この日,集まったのは20-30人ほど。入場無料なのに,ケーキとキッシュ,コーヒーと紅茶がふんだんに用意してある。

4人のパネラー(真ん中は司会者,左端が鄭議員)。



パネラーは,鄭議員と動物虐待防止,野良犬・野良猫保護活動等をしているNGOのメンバーら。活動に関わるようになった経緯や,活動のなかで直面している問題,政治に望むこと等をめぐって議論が繰り広げられた。後からこの日の記録をフェースブックで見たが,私が退出した後にはフロアとの活発な意見交換が行われたようだ。このような小さな場で,おそらく集票にはほとんどつながらないであろう動物の権利というイシューをめぐり,「政治や行政にできること」について,政治家と社会運動家,一般市民が議論を繰り広げている光景には感じるところが多かった。

正直,今の台湾が直面する政治・社会問題の数々に比べて,動物の権利というテーマはどれほど重要なものなのかと懐疑的な気持ちで参加したのだが,真摯な使命感を持って活動をしている運動家たちの話は,胸に迫るものがあった。不要な動物実験,人間の都合で消費され捨てられる犬や猫,苦しくない安楽死をさせるのは費用がかさむため,全く安楽ではない「安楽死」をさせられる動物たち,虐待やネグレクトを受ける動物たちの悲惨な現実。当事者(当事犬猫?)が声をあげられない苦しみについて想像力を働かせ,人々の意識と行政や政治を変革しようと行動する姿に,敬意を覚えた。

また具体的な問題提起として,台湾の動物保護行政の主管組織が農業委員会畜牧処動物保護科であること,動物を経済資源として扱う畜牧処の下で,ごく限られた人数で動物保護行政を行っていること自体が大きな限界であることが指摘された。


報告のようす。

動物の権利について運動をしている人たちはみな,「人間の権利だって満足に守られていない世の中なのに,何が動物の権利だ」という嘲笑を受けるという。ともすれば,私も同じようなことを言いかねないと思う。

しかし,広く共有されていない問題についてこそ,直接話を聞き,実態を知ることで新しい視点を得ることができるものなのかもしれない。少なくとも私は,この座談会のあと,これまで脳天気な目で見ていた野良犬に対して複雑な思いと関心を抱くようになったし,中央研究院の動物実験センターの横を通るたびに,そのなかで何が行われているのか気になるようになった。


さて,連続座談会の最終回は「都市の記憶:再開発か忘却か? 都市再開発と文化資産の保存を語る」。実はこれは今の台北では大変にホットなトピックで,今回のブログでもこの座談会の様子を中心に「國會大小聲」のことを書くつもりだった。フェースブック上でこの会への参加を表明した人は,前々日の段階で200人強。
早くいって場所をとらなきゃ。でも,外国人である私が,現実を変革できる選挙権を持つ台湾の人々の場所を奪ってはいけないよなあ・・・でも盛り上がるだろうからやっぱり行きたいなぁ・・・と迷っていた。


団結をアピールする民進党議員たち(鄭議員のフェースブックページよりDL)。


が,残念ながらそんな迷いはひとまず不要になった。立法院での「添加物入りアメリカ産牛肉輸入解禁」問題で,民進党をはじめとする野党が立法院の議場を占拠すべく120時間動員をかけ,鄭議員も議場に泊まり込みをするため,cafe philoでの集まりも延期になってしまったのである。


ニュースを通じて泊まり込みの光景をみていると,なんだか大学生の合宿か学園祭のようだ。最終日には,とある民進党の議員が,同僚たち全員の寝姿を激撮したということで,その画像がメディアで公開されていた。鄭議員も,しっかり寝顔を撮られていた(-_-;)。

cafe philoで繰り広げられる密度の濃いコミュニケーションも,立法院での肉弾戦や議場への泊まり込みも,いずれも政治という怪物的な営みの切り離せない一面なのだろう。


夜の部(段宜康議員)。


昼の部 (鄭議員のフェースブックページより)。

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